群発地震発生から1ヶ月<br>─トカラ列島の現状とこれからの備え

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群発地震発生から1ヶ月
─トカラ列島の現状とこれからの備え

6月末以降、トカラ列島で続いていた群発地震。大きな被害は報道されていないものの、島で暮らす人々の生活には、長引く揺れや島外への避難生活による不安が広がっていました。

島嶼基金では、財団設立前ではありましたが、7月上旬に有志メンバーを中心にサポートチームを立ち上げ、関係者との対話の機会を設けていました。

7月25日に実施した関係者会議の様子

トカラ列島の群発地震発生に対し、現状把握や財団としての今後の支援内容を検討する会議を行い、まずは現場の声を聞くこと、届けることからではないかという結論に至りました。

そこで、今回は、悪石島の坂元勇自治会長、小宝島の中村勝都志自治会長をお招きし、トカラ列島での避難の様子や現時点での課題、そしてこれからの備えや要望についても伺いました。また、十島村村議である中之島の埜口裕之さんと宝島の竹内功さんにもご同席いただきました。

ヒアリング実施日:2025/7/30

地震発生から1ヶ月──
避難した人、島に残った人々

震度6弱が発生した7月3日から早1ヶ月。未だトカラ列島沖での地震は続いているものの悪石島では、最盛期に比べると揺れは減少し、小宝島では、ほとんど揺れを感じなくなったそうです。
地震発生当初を振り返り、「得体の知れないものと戦っているような状態でした」と語る坂元さん。避難指示が出た頃は、悪石島では人口約90人のうち70人が島外避難。高齢者や子ども、基礎疾患を持つ方が優先的に避難し、若い世代でも、過去の震災経験による精神的な不安から避難を選んだ方もいました。島に残った20人は畜産関係者や発電所職員、防災関係者など、どうしても島を離れられない立場の方々でした。

今回の群発地震に対し、特例で災害救助法が適用されたことで、医師や看護師、機動隊、海上保安部などの派遣は迅速だったとのこと。「本当にいろんなところから支援をいただいて、島に残ってる人たちもいろんなところからの支えがあるんだっていうのを実感しながらの生活だった」と中村さんは振り返ります。

地震により発生した落石や地割れ

一方、不安も残されます。フェリー航路の運行により物資は届いていたものの、1ヶ月に渡り仕事はほぼ無くなる状況で、現金収入が途絶えました。終わりが見えず、島に残った人々の大きな不安となりました。
また、中村さんは、古い建物が多い小宝島では、帰島後も「また揺れが来たら」という不安が残っていると話します。今後は、鹿児島県の主導で耐震検査が予定されていますが、その後の補強に係る工事は自己負担となるため、どこまで対応できるかが課題です。
また、ライフラインの維持も大きな懸念でした。
小宝島では、地震発生後に4日間の断水がありました。島外から業者を呼べない状況のなか、島内で何とか水を確保できたものの、配水は発電に依存しているため、電気が止まれば水も止まってしまいます。島ごとにある小さな発電所も、運営するのは島の人びと。残る人々の負担は、決して小さくありません。
一方、今もなお避難生活を余儀なくされた方々にとっての暮らしへの影響も残っています。

避難生活が与えた暮らしへの影響

避難先の多くは、村が契約したホテルや、親戚・知人宅でした。ホテル泊の場合は、朝食が提供されましたが、昼夜の食事は自費となります。家族単位での避難は、食費だけでなく、毎日の洗濯やランドリー代などもかさみ、長期化によりさらに家計を圧迫しています。慣れない土地での生活にも疲れ、「早く帰りたい」という声もありました。
また、子どもたちはホテルでのオンライン授業が続いたことで、精神的にも負担が大きくなりストレスを抱えていたそうです。村からの給付金は、迅速に支給されましたが、決して十分とは言えず、資金面の不安は続いています。現在では、給付金のほか、ふるさと納税やチャリティーTシャツなど、島外からの支援も広がりつつあります。

避難のあり方に対する課題──

ためらわずに避難を選べるように

今回の経験から、両自治会長が強調したのは「避難のハードルを下げること」。

小宝島は、島の中で一番高い山でも103mです。海抜8〜9メートル程度の山の中腹に一時避難場所があるものの、今回はその避難場所である山で落石が起きている状況で、そこへ安心して避難できる状況ではありません。

小宝島 崖崩れが起きている

また、避難時には精神的なケアも求められます。
どうしても現地で被害が出ている島の様子に目が向きがちです。避難所では看護師さんが毎朝健康チェックを行うなど、体調管理の面ではしっかりサポートされています。ですが、それはあくまで目に見える“身体の健康”のケア。心の中にたまっていく不安やストレスといった“目に見えない部分”のケアまでは、なかなか手が回らなかったのが現状でした。
本来であれば、現地の職員が被災地対応にあたる間、そうした精神的なサポートは別の団体や専門家が担う仕組みをつくることも大切だと思います。
そうすれば、「避難しても安心できる」という状況が生まれ、避難を選びやすくなるはずです。逆に、今回のように避難でつらい思いをした方が「もう避難したくない」と感じてしまうことは、防ぎたいのです。
災害時には、自分の身を自分で守れる場合には現場に残る判断もできますが、そうでない場合はできるだけ避難を選ぶことが求められます。人的にも物資的にも限られた資源の中では、その判断が極めて重要です。
それでも、高齢の方を中心に「島を離れたくない」「一人で避難先に行くのは大変だから、やはり住み慣れた家がいい」と考える方は少なくありません。だからこそ、避難先でも「ここなら安心して暮らせる」と思える環境を整えることが欠かせません。
二度と同じような事態が起きてほしくはありませんが、今回の長期化した島外避難の経験から、今後の備えとして取り組むべき課題が浮き彫りになりました。
いざというときに迷わず避難できるよう、心と暮らしの両面を支える仕組みを整えること。島に残らざるを得ない親元にいる子どもには、親元を離れても安心して避難できるよう、学校同士の連携体制を構築すること。ケアを必要とする高齢者には、長期滞在に適したバリアフリー設備や食事付きの受け入れ施設を確保すること。
こうした世代や状況に応じた環境整備が、今後の災害対応時の重要な課題として明らかになりました。

困った時はお互いさま。
かつてトカラにあった「島と人のつながり」を

トカラ列島の十島村は、南北160kmにわたり点在する7つの島々で構成されています。いわば、日本一長い村。以前の小さな船では、点在する島を停泊しながら運航していた歴史があり、乗船できたとしても波風によっては、自宅のある島へ行きつかないこともありました。そこで、血縁はなくてもほかの島にそれぞれ「親戚のような家」があり、島をまたいで助け合ってきた歴史があるそうです。

小宝島の海中温泉に浸かる子どもたち

災害発生時だけでなく、日常からのつながりをフェーズフリーとして、平時からホームステイや受け入れ先を整えておけば、災害時の避難が格段にしやすくなるといった声をいただきました。それは、子どもだけでなく、高齢者や家族単位でも可能です。困った時は、お互いさま。東シナ海の厳しい環境を前に育まれてきた助け合いの精神は、いつの時代も失ってはならないのかもしれません。

*フェーズフリー
日常時と非常時を区別せず、普段使いできるものが非常時にも役立つようにする考え方です。特別な防災用品を用意するのではなく、日常のものがそのまま非常時にも使えるように工夫することで、より自然に防災意識を高め、安心して生活できる社会を目指すものです。

https://phasefree.or.jp/

中村さんは、自身も3人の子を持つ親として、「学校単位で鹿児島に避難できる体制があれば、子どもたちも安心できるし、先生も避難を選びやすくなる。リモート授業よりも対面で学べるほうが子どもにとって良い環境。」と、教育分野の仕組みづくりも強く望みます。
近隣の島々にある学校や地域、教育委員会などとの連携に向けた災害支援の取り組みも、コミュニティ財団として重要な取り組みではないだろうかと感じました。

トカラ列島を結ぶ「フェリーとしま2」

秋には島々が賑わうイベントも
「元気なトカラ」を外へ発信していきたい

地震の影響は、観光にも影を落としました。群発性地震が起きたことでメディアの報道による風評被害も全体に広まっている状況です。だからこそ、「元気な島を外に発信していきたい。」と坂元さんは、語ります。

例年賑わうトカラ列島島めぐりマラソン大会の様子

地震はまだ完全に収束したとは言い切れませんが、悪石島では、ユネスコ無形文化遺産にも指定されている仮面神「ボゼ」が邪気を払う神事や、「トカラ列島島めぐりマラソン大会」の開催を予定しており、秋にはトカラ列島が賑わうイベントが待っているはずです。

悪石島の仮面神「ボゼ」お盆行事の最後に出現する来訪神であり村人の穢れを払ってくれる神様

観光客にも島民にも、もう大丈夫という安心感を届けたい。「トカラが元気だという姿を見せたい」と坂元さんは語ります。もし、いくつかのイベント開催が難しくともトカラの元気を伝えるイベントなどの開催も財団として、検討する余地がありそうです。

島嶼基金としてのこれから

防災という言葉は堅苦しい印象を受けますが、島嶼基金は、防災意識を高めると同時に、日常の中で「頼りになる仲間が増える」と感じられる前向きなつながりを広げたいと考えています。
災害時の連携協定締結や、平時からの交流・受け入れプログラム等を通して、災害のときだけでなく、日常から”頼れる関係”を育むこと。それが島嶼基金の目指す支援のかたちです。

インタビューにご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。

私たち島嶼基金は、島と島、人と人をつなぎ、災害にも負けない地域をつくるために、これからも島々の応援団としての歩みを進めていきます。また、災害時のみならず、一人一人の島での夢や目標など、たくさんの挑戦の後押しができるよう、成長してまいります。
これからも島々への関心と、皆様からの応援をよろしくお願いいたします。

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